2017年4月2日日曜日

活動報告書をめぐる因果

青年海外協力隊員の実際の活動を知る資料の一つに活動報告書がある。
ぼくは前任者の報告書を任地に持参し、穴が空くほど読んで、破れた。
残された活動を継続し、自分のやりたいことを加える。当時はやる気と行動力が伴えば何でもできると高をくくっていた。

蓋を開ければ、しばらくは様子見…単車が来たら…の言葉のもと1年間干された。そもそも仕事の絶対量が少なく、役不足だった。要請とのミスマッチは想定していたが、酷かった。
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石鹸づくりの講習会。仕事をしている姿は絵になるが、ガーナの女性は前屈運動並みに腰を曲げて作業をするので写真が撮りづらい
青年海外協力隊はビジネスでないので、ぼくは成功の是非に重きを置いていない。失敗続きの中、もしうまく行くことがあれば、諸方にとって御の字と思っている。一番嫌なのは何も行動を起こせないことだった。
何度か調整員に相談し、配属先に活動の提案と計画書の提出をしたが変わらなかった。配属先自体に仕事のない日が増え、とりまく状況は悪化の一路をたどっているのは明白だった。
匙を投げた。郡役所内の面識がある部署に自分をねじ込み、そこで新たに活動することにした。
地元の小零細企業などの支援をしており、元々の配属先とも無関係ではなかった。主催するワークショップに同行しながら、自らのアイデアを盛り込み、企画、開催する側に回る。残された期間でそれができれば上等と思った。
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ビーズのアクセサリー作り。個人によって熟達度、作業のスピードが違う。ぼくは手先はまあ不器用な方ではないが、細かいものが見づらくなる人体の不思議な現象に悩まされ始めているので、目がつぶれそうになるだろう。
だが、従来のワークショップはありふれた内容で、結果につながっているとは思えなかった。
年末年始にガーナ北部へ旅行に出た際、シアバター、織物や衣類、籠バッグいった特産品に感銘を受け、任地でも地場産業の確立につながることがしたくなった。
可能性の見いだせる分野にテコ入れし、それをモデルケースとし他の産業ならびに地域全体に普及させる。簡単に行くとは思わなかったが、やってみる価値はあった。
同僚に相談し、ココナッツオイルが地域の特色も打ち出せることから、その生産性と売り上げの向上を目指し活動を開始した。
前後してJICAの調整員と新旧の配属先を交えた面談が行われた。籍はそのままにし、両所で並行して活動する名目で、実質的に異動が承認された。
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出来上がりサンプル模型の出来上がりサンプル、カメラの撮影サンプルなど、サンプルほどあてにならないものはない。小さい女の子が喜びそうな気のせいだろうか。
担当の調整員とは日ごろから連絡を取っており、配属先がほぼ機能停止しているので別の機関に出入りしていることは伝えていた。
それ故の面談と思っていたが、活動報告書が立場ある方の眼に入り、身を案じてくれたことも大だった。
報告書など形式上のものと割り切っていたが、充実した活動を取り繕う気にはならなかった。目下の環境に対する不満や意見を述べたものの、愚痴っぽいかなとも思った。だが、意外なところで読んでくれている人がいて、活動にも影響するのだから言いたいことは言ってみるものだ。
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ココナッツの殻と工場で働く女性

元の配属先とは縁が切れる気がしたが、先方も懸念したのだろう、翌日、急きょ会議が催された。議題の一つは受け入れ研修生用の授業の開催で、担当を割り当てられた。それは1年前から提案し続けたが、諦めたものだった。他人を行動に駆り立てるためには、自ら思い切った行動が必要なのだろう。
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なかなか凶悪なツラ構えで物騒な雰囲気充分であるが、ココナッツを圧縮してオイルを絞っているだけだ。
髄一の暇隊員を自称していたが、立場は一変した。日本にいる時は、暇が好きだった。日本の忙しいは限界を越えているが、ガーナにおいては何もないよりは多忙な位が丁度良い。
この時期になって活動に手ごたえを感じるようになったのは、ぼくが発したサインに応じてくれた人がいたおかげだ。
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バージンオイルを精製後の残りを煮詰めて、廉価なオイルを取り出す作業
少し前のぼくもそうだったように、多くの人が向けどころのない不満や憤りを感じていて、世の中はそのような届かない声であふれている。

そして、たとえ何の力になれなくても、そんな声に耳を傾けられればと思う。